QuizKnockや東大王がクイズを普及させる上で抱えるジレンマ
QuizKnock(クイズノック)は2021年4月現在160万人の登録者を抱える一大「クイズ専門」メディアです。「東大王」というテレビ番組に出演していた東大生が中心につくりました。
私もそのファンですが、特に熱心なファンは読まないでください。それで気分を害したとコメントされても困ります。
誤読を防ぐため、私が「言っていないこと」をまとめておきます。
- QuizKnockはただちに動画をやめよ
- QuizKnockのメンバーの行動は浅はかである
- QuizKnockのメンバーより自分のほうが賢い
- QuizKnockのファンは批判精神が足りない
- QuizKnockのファンはアホである
以上のことは私が一切「言っていない」ことです。
求められる再生回数と癒し
WEB上で、情報媒体としての文章、特にこのようなブログはオワコンとなり、誰も彼もが動画事業に参入しています。吉本興業の芸人さんさえも、です。
QuizKnockもブログをしてますが、それ以上に動画がもっと好調です。
動画を見るのは通勤(通学)や疲れているときで、求めるのは「癒し」圧倒的にそれ一本。そして「わかりやすさ」。自力で咀嚼する必要がある文章は好まれません。
QuizKnockはたぶんそれを察知していて、動画に求められる形式で人々に癒しを提供しています。
動物動画、漫才、あるいはユーモラスなゆっくり解説が再生を集める現状を鑑みるに、人々は別に知性を得たくて動画を見るわけではないのでしょう。
私にとってのっぴきならない問題は、クイズ界隈の最頂点たるQuizKnockが再生回数や癒しを届けていくと、それがかえってクイズ離れを引き起こさないか、という危惧です。
QuizKnockが抱える「致命的ジレンマ」
実のところ、QuizKnockは本当に致命的なジレンマにさらされています。
それはまるで自分のお腹に突き刺さったナイフのようです。ナイフを引き抜かないと痛いが、引き抜くと出血して死んでしまう。
私よりも碩学なQuizKnockメンバーはそのことに気付いていますが、おそらくは気づいたうえで、その対処方法が「ない」、つまり詰んでいる。
ジレンマとは「QuizKnockが癒しを提供するほど、誰も彼もクイズを始めたくなくなる」。
いったいどういうわけか。
競技クイズのお勉強は癒しと真逆
このジレンマは「競技クイズという性質と、YouTubeに求められる癒し」の相反する属性が起こしています。
競技クイズをしようと思うと、まず膨大な知識を覚えなくてはいけません。それも「どの段階で答えが一つに絞れるか」までを含めてです。
そんなものは本来必要ないと以前に書きましたが、大会に出るには対策は必要です。
受験勉強のような味気ない、癒しとは真逆の「お勉強」を要します。
彼らはおそらく「クイズの知識は楽しんで覚えてきた」と語るでしょう。
しかしそれはクイズプレイヤーの中でも一部で、私を含むクイズ経験者は日々、最新のトレンドを含め、知性とは程遠い些末なトリビアを覚えるのに苦心しています(いました)。
エクセルで回ってくる対策問を、確定ポイント含め徹底的にやりつくす。これだけで社会人の余暇は全て埋まります。
果てない受験勉強のような学びが嫌でクイズを去っていく人も少なからずいます。
YouTubeにそんな艱難辛苦の日々を載せるわけにはいきません。ブログなら過程や問題リストを掲載できますが、彼らがとった手段は動画でした。
ところが。
だーーーれも、頭を使ってYouTubeを見たくなんかない。
仮にQuizKnockに憧れてクイズを始めた人がいたとしましょう、いや、いました。私の友人たちです。月に何回かは集まってクイズをしてました。今じゃどうか?
来なくなりました。なぜならクイズ用の知識を覚えることに飽きたからです。
QuizKnockのようにすらすらと問題に答えられるようになるまで、あまりに途方もない時間とリソースを費やす必要があるとわかったからです。
競技クイズを普及させるには、そこに至るまでの過程「も」ちゃんと伝える必要があるのですが、ファンはそんなもの必要としてません。単に癒しが欲しいんです。
自分ではない物知りな人が気持ちよさげにクイズをする姿を、東大生の下手な踊りを、かわいい会話をを見たいだけ。
QuizKnockという名前を売って再生回数を上げようとするほど、結局は世間一般の需要に迎合せざるを得なくなる。
つまりそれは癒しを提供することであり、小難しい競技クイズの仕組みや問題暗記の苦痛をブラックボックス化することでもある。


そのために彼らは東大ブランドを押してきました…というか、東大発の知識メディアという時点で、彼らが取れるのはそれぐらいしかありませんでした。
癒しの提供のためには「東大生がこんなにかわいくて等身大なんて」というギャップが必要ですし、仕組みをブラックボックスにする上で「東大生だからできる」と言い切れば楽ですし。
しょうがないことではあります。
東大なんて何も関係ない大学生有志が発信していればまだ救いはありました。「東大生でなくても楽しみながらクイズをする方法がある、僕たちと一緒にクイズを楽しもう」と主張できたのですから。
東大生であることがクイズを楽しむための条件ではもちろんなく、誰にだって開かれています。
彼らがクイズが強いのはクイズのための訓練を積んできたからで、東大生だからではありません。でも、もはやそんなことを言える場ではなくなってきています。
QuizKnockのファンは「東大生の○○くんが好きだから」見ているのであって、「クイズが強いから」見ているのではありません。QuizKnockのメンバーに高卒の人間は一人もいませんし。
東大生の言う「学歴関係ないよ」は通用しない
それでは趣向を変えて「クイズには学歴なんて関係ないよ!」と主張するとしましょう。実はこちらの方向性でも詰んでいます。というか詰んでるからこそ、QuizKnockは開き直って東大ブランドを提げているのだと思います。なぜか?
東大生が「学歴関係ないよ」と言ったって、誰も聞く耳を持たないからです。
これがもし、東大どころか大学にもいかず、中学を卒業して30歳ぐらいまで働きづめ、しかし奮起して猛勉強して全国大会で優勝した高橋さん(仮名)が言ったのなら、そりゃあもうずば抜けた説得力があるでしょう。
でも実際は東大。「所詮、東大生なんだろ?」となってしまってます。アンチもファンも。
東大生とクイズは相性がいい
それではもう「QuizKnockが高橋さん(仮)みたいな非東大クイズ未経験者をスカウトして、クイズ大会で優勝するぐらいに勉強させる」という企画でもやっちゃいましょうか!
実はこの面でも厳しいところがかなりあります。
クイズ全国大会をググって調べてみると、上位には名だたる面子が揃っています。
東大医学部、京大医学部、慶大医学部、学生クイズ連覇者…。
クイズは暗記量が膨大であるがゆえ「暗記が得意な人」「暗記しやすい勉強法を知っている人」「既に多くの知識を暗記している人」に適性があります。明らかに、です。
それって誰なのか?ずばり東大生や医学部生です。
勝つために関心のない知識を大量に暗記して適切に運用する…。
その手続きや過程がクイズと受験勉強では大いに似ており、受験が強い人がクイズにも強いのは本当に当然の話です(競技クイズ経験者なら首肯するところでしょう)。
言い換えればクイズ王は、受験が終わってからもずーっと受験みたいなことをやり続けているんです。適性がないと苦痛でやってられません。
全国大会には受験勉強を片手間にしながらクイズをやりつめ、高校生クイズ時代から大活躍してきた人達がひしめいています。ずーーっと、クイズのことを考えてきた人達です。
凡人が1日10時間勉強したって東大には行けないのに、その受験勉強を片手でやりながらクイズ問題を覚えてきた人達です。
「伊沢さんだって高校3年の時の成績は下から数えたほうが早かったのに東大に受かっただろ!」としょ~もない反論をする人は頭を冷やしてください。
そもそも1年足らずで東大は凡人だと無理です。相当に暗記力と学習効率がよくない限り。
伊沢さんレベルの集中力があるならわかりますが、そうでない普通の未経験者を引っ張り出して大会で勝てるように教育しようなんて、QuizKnockメンバーほどの頭がない私でもわかります。
絶対に、頓挫します。
それゆえ彼らはやらないのです。やれないんです。
須貝くんがクイズをして強くなっていくという「クイズ王への道」なる企画がブログのほうにあって、それけっこういいなと思ったんですが、冷めた言い方すれば「東大生の」話。
「東大生じゃないけど俺も強くなりたい!」なんて人が何人いるでしょうか?
私は思わないです。東大出身じゃないので(これは皮肉です)。
非東大生がクイズに強くなる企画を望んでる視聴者はいないかもしれませんが、普及させたいなら私はそっちのほうが(かえって)効率がよいと思います。
というわけで、QuizKnockが東大で企画を推しているところから全てはスタートしていて、そこを首根っことして抑えられている彼らは「絶対に」その縛りから抜け出せない。
これがジレンマの正体です。
単一コンテンツによる癒しは永続しない
このジレンマは本当に厄介なのですが、手をこまねいているうちにやがてクイズブームが終わります。
東大系番組、そしてクイズ番組の金字塔であった「東大王」さえ、水上くんや伊沢さん、鈴木さん、鶴﨑さんのような後釜、カリスマのある後進を育成することに完全に失敗しました。
今出ているメンバーには失礼ですが、もう彼らほどの知名度はありません。
問題も、純粋な推測力を必要とする良質なクイズからかけ離れ、ただのIQテスト、できの悪い謎解き問題、はてには川柳なんて何の力をはかってるのか意味不明なものまで。
以前に私は「クイズは別にお決まりのものである必要はない」と言ってましたけど、ちょっとこれは別ですよ。競技クイズである必要性がないんだもの。
虎の子である動画事業も、今のメンバーが抜ければ次第にファンは離れて再生数は落ちていきます。
なぜなら「クイズをする東大生」ではなく「クイズをする○○くん」に注目している人が多数だからです。癒しを求める大多数は、その癒しがなくなれば残酷にも見棄てていきます。
2期、3期になるにつれアニメの視聴者が減っていくようなもので、これは自然の摂理です。
資本主義、特に営利をむさぼることに特化した現代インターネットでは、提供者も視聴者もイナゴのようにコンテンツを食いつくし、花の蜜を求めるミツバチのようにあちこちの媒体を歩くのに必死です。
さらに刺激的で癒しを与えてくれるコンテンツがあれば、あとはもうあっという間でしょう。「癒し」を食べつくすことに一生懸命で、10年後にはもう顔も名前も忘れられます。
そのときクイズ界はどうなっているのか。
よくて現状維持、悪ければ先細りなのではないか。
東大という権威にすがった状況で競技クイズが普及することもなく、今のまま「変人や賢人のための娯楽」あるいは「テレビの専売特許」で有り続けるか、それ以下に没落しているでしょう。
私も何とか、それを食い止めるためにブログを書き続けています。第一線からは離れましたがクイズが大好きだからです。
だからこそ、QuizKnockが全て正しくて、メンバーは絶対に間違えないという風潮に反抗したいのです。
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