「自分の頭で考える」と陰謀論に走るので、まず専門家の意見を調べよう

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「自分の頭で考える」とどうなるのか

私は以前、以下のような記事を書いてきました。

なぜ陰謀論に人間がはまってしまうのか、陰謀論にはまることは不自然ではなく、むしろ人間としてとても素朴なのだ、という感じのことを論じました。

彼らがよく使う単語に「自分の頭で考えよう」があります。

要するに「メディアの印象操作やネットの工作員に惑わされないようにしよう。冷静に考えれば答えは見えてくる。ビルゲイツがナノマシンを投与するためにコロナワクチンを作っているのだ」と…。

なんだか頭が痛くなってくる話ですけど、本当に日本のインターネットで起きている話です。疑うならツイッターで「枠珍」(ワクチン)と調べてみてください

お手軽異世界ピクニックができますよ。よかったですね。

陰謀論の本質は「反権威主義」

陰謀論を唱えている人の心理はわかります。

実のところ陰謀論の本質は「反権威主義」です。

といっても、学問的に裏付けされた思想ではありません。何となくみんなに受け入れられているものに反感を覚えている、という話です。

陰謀論に「マスコミが偏向報道によって世論を操作している」「ワクチンは有毒である」があっても、その逆…「マスコミは無力である」「ワクチンに毒はない」が界隈に膾炙しないのはそういうわけ。

この視点を覚えておくと、非常にクリアになります。

ここでマスコミやワクチン(=科学)は「権威」とされており、それを否定することで陰謀論は生きながらえます。

陰謀論者がよく「自分の頭で考えて真実に目覚めよう、そして我々とともに『戦おう』」と言うのはまさに、この論の正しさを裏付けています。

冷静に考えれば戦うなんてコストの高い方法を取るメリットがないんですよね。フリーメーソンでもマスコミでもワクチンでも、素直に従っといたほうが明らかにラクなんです。すり寄るほうがコストが低い。

でも彼らはそうできない。なぜなら陰謀論とはエセ・反権威主義という巨大で不完全な、胎動する母体の腹から生まれた怪物であり、権威への怒りや不信感をあらわにする存在意義をもつからです。

「自分の頭で考える」のもつ意味

陰謀論を反権威主義という文脈の中に置くと「自分の頭で考えよう」という言葉の本当の意味が見えてきます。私はこの前の記事で

そこで使われる符牒こそが「真実」「目覚めた」です。

とりあえずこれらの単語を使うことが、彼ら陰謀論者にとっては互いを見分けるための目印になります。なぜ見分ける必要があるかというと、陰謀論が少数だからです。

https://withtulpa.com/conspiracy-emphasizing-1/

つまり、彼らにしかわからない暗号が「真実」「目覚める」「工作員」であり、これらを使っている限りは身内として団結できる、と書きました。

「自分の頭で考える」もまさにこの団結ワード、符牒の一つなのですが、それ以上に深い意味を持つことがあります。下の図をご覧ください。

多くの陰謀論者は「自分の頭で考えた結果、真実に目覚めました」と言います。実はこれ、本人さえも意識していないラインが、その前にあります。図で「言語化ライン」と書いてある点線より前の部分。

つまり「かつて自分はアホだった」の部分が言語化されていません。そして私が今回伝えたいのは、まさしくこの「かつてはアホだった」です。

これをもう少しマイルドに言うと自分も、世界を裏から支配する組織の悪辣さに気付かない、大衆の一員でした」になります。

そういったニュアンスが「自分の頭で考えた結果」には含まれています。この言い回しが「真実」と実によく使われよく響くのも、説の正しさを示しているようです(かつて自分は真実に気付いていなかった、という意味なので)。

大衆の一員だったが、自分の頭で考えそれを脱した、つまり「かつて権威主義だった私は、思考を手に入れて反権威主義陣営に加入した」ということです。

ところがこの「思考」は非常に厄介なシロモノで、思考自体は思考の正しさを規定しえません(ゲーデルの不完全性定理)。つまり「思考しているとき、自分の思考が正気であることを示してくれるものはなにもない」

これは残念ながら、すでに数学的に証明されてしまった事実です。反証がないとは言いませんが、私は「あ~これは、これは証明されちゃってるやつや、反証できんな」と思いました。

思考を正気に近づけるためには、自分の頭で考えるための能力が必要です。そしてそれは「自分の頭で考えよう!」と唱えている彼らには足りないものです。

自分の頭で考えるためには「今のこの自分の考えは本当に正しいのか」と自省する能力が必要なのです。反陰謀論者はこうした能力を研究によって身に付けます。

論文を書いたことのある人ならわかることですが、仮説を提唱する、実験をする、論文を書く、受理されるまでの一連のステップは、おのれの仮説がどこまで正しさを帯びるか検証する作業に他なりません。

査読制度自体の正しさに疑問符が付き始めている現在でも、やはり科学的な信ぴょう性はこの工程の中でブラッシュアップされていきます。

批判されることによってはじめて、仮説は正しくなっていくのです。

自分の頭で考えるために最低限必要なこと

自分の頭で考えるためには最低限、以下の能力が必要になります。

  • 適切な文献を探し当てる能力
  • 文献を誤読なく読む能力
  • 文献を批判する能力
  • 文献を引用する能力
  • 仮説を立てる能力
  • 仮説に批判的に向き合う能力
  • 他人からの仮説批判に耐える能力
  • 仮説を文章にする能力

たくさん列挙しましたが何のことはありません。ブログを書けばこんなの、秒で可能です。中高生の時に身に付けている人もいます。

ところが、ツイッターにいる陰謀論界隈の人々にはこれらの能力の多くが欠如しています。彼らは

  • 自分に都合の良い情報を切り貼りして思想を身にまとう
  • 情報を精査せずに拡散する
  • 批判はブロックする

ことで知られています。例えばトランプ大統領が2021年4月11日現在でもまだ大統領に就いていると考えている陰謀論者さえいます。頭が痛い。

そんなに気になるなら実際にホワイトハウスを見に行けばいいのに、彼らはそれをしません。デマだと指摘されたら「あなたには話していません」と拒絶する始末。

私ほど粘着質で、陰謀論に対する科学的な批判も論文をもって再反論できる能力がある人間は界隈で見たことがありません。そんな人は最初から陰謀論にはまらないのでしょう。哀しきかな。

上で示したような能力の多くを手に入れないまま「自分の頭で考える」と、ほとんど必然的にオーソドックスな陰謀論に騙されてしまいます。

なぜならそれらの陰謀論は

  • 非常に明確な「悪者」がいる
  • 誰でもわかるドラマチックな筋書きをもつ
  • 批判精神がなくても信仰できる

からです。そういう意味では宗教に近いかもしれません。

苦々しい複雑系に生きる我々は、そんな純粋な悪はどこにも存在しないことを知っています。国も世界も大富豪も、人々の内心を制限できるほど能力が高いわけではありません。

彼らの言う陰謀が全て真実になった世界では、陰謀があることさえ誰にも気づかれないでしょうし、気付いてもすぐに始末されるでしょう。

「人々の思想を改変するマイクロチップをワクチンによって埋め込める」技術のある世界で、なぜ自分だけが『真実』に気付くというのか?そんなに自分を優秀だと思いこみたいのでしょうか。

そんな単純な反論も思いつかない人間がそういった考えを信仰しているのだと思います。

それこそ「自分の頭で考えれば」見え見えの罠に引っかかることはないと思うのですが(ニュースであれだけバイデン大統領の就任動画が流れたのに…)。

科学も権威であるがゆえ、論文を信用しない悪癖

この一連の流れ…「能力なしに自分の頭で考えた結果、皮肉にもありがちな陰謀論に没して個性を失う」という流れでとても皮肉なのは、陰謀論自体が反権威主義であるがゆえ「論文によって信を問う」ことが不可能という点です。

科学が産み落とした最大の収穫こそ「論文」でした。

私が人間最強の能力だと断言しているのが「知識を継承する能力」です。

正しい知識を求める人類が、おのれを強くするために連綿と書き繋ぐ知識の神々しい網こそが論文です。これがあるからこそリニアモーターカーやストラテラ(ADHDの薬)や核兵器が生まれました。

論文は科学的な手続きによって書かれ、評価されます。まるで獅子の子落としのように、後世や同世代の人間による批判という困難に耐え抜いた強靭なものだけが生き残り、次の世代へと語り継がれていきます。

しかし陰謀論者の目線にとってみれば科学とは怪しい象牙の塔にほかならず、人類が真実を求める手法として最適化してきた「論文執筆、査読」という手順さえ「不要なもの」と化します。

彼らが論文を引用して、従来の仮説を批判する大胆な論文を発行しないのには理由があったのです。「そもそも論文なんてもの、信じないから」。

「もうボクちん怒った!そんなに陰謀論陰謀論と批判するなら、もう論文書いて正しさ証明しちゃうもんね!!」が原理上、できないのです。科学的な手法に則ったが最後、科学という権威主義への白旗上げとみなされ、同胞である陰謀論者に攻撃されてしまうからです。

自分の頭で考える前に、まず専門家の意見を調べよう

知識がないうちに自分の頭で考えてもロクな考えは絶対に出てきません。

歴史ではよく「素人の提案が王様の考えを変えた」ってエピソードがありますけど、それはほぼ架空の作り話です(王様も好感度を上げる必要がありますからね)。

素人が5秒で考えたことなんて、専門家はとっくに比較検討しています。やってないのはそれなりに、複雑な力学関係があって力を行使できないとか、コスパが悪いとか、人権を無視できないという理由があります。

もしこれを無視してしまうなら、コンビニの書籍棚にある「世界のミステリー100選」に載ってたりする『アレ』と同じことを唱える羽目になります。

要するに「個性を求めて没個性」といういつもの流れ。

本人たちは「真実に気付いた優秀な自分ごっこ」をしたいようですが、世界を変える発見はツイッターなんてネットの場末には絶対に転がってません。

世間を疑う前に、まずおのれの頭を疑いましょう。話はそこからです。

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