デマをばらまく「クイズ」
以前から私はクイズ界隈の自浄作用のなさを批判してきました。
例えばこの記事。
それからもう一つクイズ界隈に対して不信感を抱くことがあって、それが自浄作用のなさなんですよね。体質が変わらないというか。伝統を重んじすぎるというか。
例えば問題の出題一つとってもああだこうだのルールが非常に多い。パラレル問題やら名数問題やら、いろは順がどうとか和がどうとか、お決まりがとっても多い。
これ以外に不信感があるとすれば、それは「知識に対するいい加減さ」だと思います。

良心に任せられたクイズ裏取り
クイズを出すとき、そこに情報源が求められるのは当然の話であると私は考えています。
それはクイズ作家や他のクイザーの人も同じで、例えばプロクイズ作家の古川さんも、裏取りにけっこうな時間をかけている、とツイッターで話していました。
とはいえ、そもそもクイズの出題時に情報源を提示して、その情報源の強度を回答者や参加者が測るということはありえません。
極端な話、プレジデント○ンラインの一部のクソみたいな記事でも情報源になりえますし、何なら情報源がなくてもバレません。
つまり、どれぐらい下調べをするのかは、ほぼ完全に出題者の良心と時間の余裕に依っています。
まったく出典のない世界三大料理
例えば「世界三大○○」という問題はクイズで非常によく出題されます。
名数問題、と呼ばれるジャンルで、出題者からすると問題にしやすいうえ、早押しの醍醐味である推測が働くので、まさにクイズの華といってもよいでしょう。
ところがその中には、どこにも情報源がないような事柄が紛れ込んでいたりします。
例えばクイズ界隈で「世界三大料理」というと、それは中国料理、フランス料理、トルコ料理なのですが、その情報源はじゃあ、どこなのか。

のソースでは「図解 世界の「三大」なんでも事典」という本で、これ私持っているのですが、残念ながら世界三大料理である理由がないんですよね。
英語では”the Three Grand Cuisines”という訳語なのでそっちでググってみたらQuoraの質問が見つかりました。
しかし、なぜ世界三大料理がこの三つなのかの理由は得られずじまい。
ここらへんまでくるともはや書籍とか論文を書くときの領域になってきますが、クイズが「森羅万象の知識を問う」という名目であるなら、やっぱりそれぐらいの裏付けはしてほしいところ。
私はやるようにしていました。
じゃあ全員がそうなのかといえばそうではなくて、こういう問題ってクイズ界隈ではベタ問(有名なのでみんなが覚えている問題)とされていて、あんまり疑問を持たない人が多いみたいなんですよね。
なんか知らないうちに問題と答えが定着してて、もうそれが当たり前になっちゃってて全然疑われないし、むしろそういうのに突っ込むのは野暮だ、みたいな。
で、そんなことを考えてるともっとひどい実例を見たので報告します。
クイズ専門チャンネルにまであまりに雑な間違いが
その動画はこちら。
たびたび当ブログでも取り上げているカプリティオチャンネルです。
クイズ王の古川さんが設立した会社が運営するYouTubeチャンネルで、私も好きでよく見ているのですが、上の動画の間違いは本当に残念でした。
電流、電圧、抵抗のうち、超伝導体で値が限りなく大きくなるのはどれでしょう?
答え:電流
初見から「これはあかん」と感じました。
これ、回答は「該当なし」が正解。
数学における「限りなく」の定義は「無限」と同義です。一般的な意味だと良心的に取ったとしても「普通じゃ考えられないほど大きくなる」という意味です。
ですが、超伝導を研究している京都大学雨宮研究室によれば、超伝導には臨界電流密度というものがあり、それ以上に大きくなると超伝導を維持できない電流密度が存在する、というのです。
つまり「限りなく大きくなる」なんてことは絶対にありえないわけで(そりゃ物理現象なんてそんなもんですよね)どう良心的に解釈してもこれは、間違っています。
「高温超伝導体の微細組織と臨界電流密度」という特集によれば本質的に超伝導が保てなくなる値は77ケルビン、2000エルステッドで\(1.6 \times 10^{11}\)[A/m^2]だそうで、ここに例えば断面積0.01[mm^2]をかければ1600[A]です。
1600アンペアは非常に大きく、こんな値を日常で見かけることはまずありません。
とはいえ「限りなく大きくなる」というものでもないでしょう。
雑な推測で作問してデマを広げる
おそらく問題をつくったのは古川さんでしょうから、彼の考えを推測してみます。
「超伝導体は抵抗がゼロとみなせる。オームの法則から、電流は電圧割る抵抗なので、超伝導体では電流は限りなく大きくなる」
いくらYouTubeチャンネルとはいえ、プロのクイズ作家が聞きかじりの知識と中学レベルの自然法則をつなぎ合わせて問題を作っておいて、その裏付けも取らないというのはずさんにもほどがあります。
私が超伝導の専門家ならツイッターに乗り込んで文句を言っていたでしょうし、企業ならそんな問題をつくる会社にクイズ制作を頼みたいとは思いません。
「超伝導 電流」でググりさえすれば臨界電流のことが記載されているのに、それも怠ったというのでしょうか。参照したソースが間違っていたことを祈るばかりです。
クイズに間違いを広める力があることは知られていい
こうやって人の間違いを指摘して喜ぶやつだと思われるのもシャクなのでそこは強調しておきますが、クイズが本当に簡単に、みんなに間違いを教える力があることは、クイズ界隈の人はもっと自覚していいと思います。
実際、さっきの雑な問題に引っかかってる人もすでにいっぱいいましたし。

私はそれを大上段から語りたいのではありません。自戒をこめて言っているのです。こうやって語っている私も実は間違いがあって、超伝導の専門家から見ればおかしなことを言っているかもしれない。
ちなみにこれはクイズ番組も同じです。
例えば「東大王」という東大生VS芸能人の番組では「ビビる」の語源として「鎧同士が触れ合う音」が正しいとされていました。
なぜならクイズ界隈では「○○という説がある」という表現で、手垢がつくほど出題されているからです。おそらく作問者はプロクイズ作家で、当たり前すぎて疑わなかったのでしょう。
しかし、これを採用しているような辞書は私が探したところありませんでした(「びくびく」が由来でした)。
クイズが気の毒なのは、出題の性質上、後から「問題のソースは?」と誰かが問い合わせてみることがほとんどない点です。知的競技を名乗っておきながらこの性質なのが本当に手痛い。
私が作っていた時も全然そういう問い合わせはありませんでした。唯一「あれって○○じゃなかったですっけ」とツイッター経由で来てめちゃくちゃ助かった、ぐらいです。
だからこそ、問題を作る人は己の知識に謙虚で懐疑的であるべきで、
それは一部のクイザーがやっている「間違っていても面白い俗説を『~という説もある』なんてお茶を濁した言い方で出題する」こととは真逆だと思います。
クイズと知識の関連性はこちらで考察しています。
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